『制約が市場にあるとき』-サプライチェーンをTOCで最適化する

エリ・シュラーゲンハイム/H.W.デットマー著
小林英三/櫻井忠雄/伊藤隆史/早川弥生/沖康広訳
PDF版 定価:3,000円 (税込)

表紙:制約が市場にあるとき

本書は、生産管理の領域でマネージャの果たす役割を重視したものです。私たちの観点から見ると、管理とは会社の組織全体としての業績を改善する責任をまっとうすることです。本書の中で焦点を当てようとしていることは、このような改善の目標についてです。・・・・・

追加書籍情報

なんだって!生産管理についての本がまた出たの。もう、生産管理の本は、十分、書店に並んでいるじゃない。

 このテーマについて書かれた本をうまく積み上げれば、ミシシッピー川の洪水も防げるほどです。 多くの著者たちがそうであるように、私たちも、このテーマについて、新しいことを述べようと思っています。 そして、私たちが述べようとしていることは、生産管理の最新技術に進歩をもたらすものだと思っています。 しかし、それを判断できるのは、読者の皆さんだけです。

 本書は、生産管理の領域でマネージャの果たす役割を重視したものです。 私たちの観点から見ると、管理とは、会社の組織全体としての業績を改善する責任をまっとうすることです。 本書の中で焦点を当てようとしていることは、このような改善の目標についてです。 そして、本書の中でいう「改善」という用語は、会社全体の改善という意味でのみ使われます。 したがって、私たちが書くことは、どのようにして生産業務をもっと早く行い、どのようにして会社としてのニーズに敏感に反応するかということについてです。 これらのことは、市場に、よりよい満足を与えることを意味します。 しかし、これは、個々の部門が孤立していては実現できません。 会社というものは、相互に依存した部分からなる全体でできています。 生産の他にも、マーケティングと販売、エンジニアリング、購買、経理財務、人事、安全、品質、その他、ここに挙げられていない機能を担う部門があります。 これらの部門のすべてが、一つのことで共通しています。 これらの部門は、すべて、同じ船に乗っているのです。 したがって、これらの乗員は、彼らが、どれほどよく協力し、助けあうことができるかにより、全員が沈没する船と運命を共にするか、または、順調に航海を続けることができるかが決まります。 換言すると、システムの統合に成功できるかどうかにより、勝利者と敗者が決まります。 このことは、会社のすべての部門が、組織全体の中で、全体的な観点から自部門を見て、全体的な観点から自部門を管理する視点を持たなければならないことを意味します。

 本書は、このような管理のアプローチについてのものです。 このアプローチの基盤となるものは、システム的な思考です。 システム的な思考というと、非常に、哲学的な響きがしますが、実は、非常に実務的なものです。 このアプローチでは、上で触れたような部門間に存在する依存関係を認識します。 本書で記す、この管理のアプローチに組み込まれている概念の多くは、その根源を制約理論(TOC)に持っています。 制約理論は、エリヤフM.ゴールドラットにより考えられた知識の塊で、20年間にわたり、多くの人が貢献して、発展させてきたものです。 本書を読んで行くにつれ、読者は、伝統的な考え方と衝突する考え方を見つけるでしょう。 王様に、王様はなにも着ていないですよ、と話すことは危険なことです。 しかし、進歩は、既存のパラダイムに挑戦する運動です。 既存のパラダイムの多くは、これまで大切にされてきた仮定の上に築かれています。 これまでいつも行なってきたことをいつも行なえば、これまでいつも得てきたことをいつも得るでしょう。 しかし、著者たちは、そのようなことを行ない続けることは必要ないと思います。 そして、制約理論の持つ、全体的視点に立つ原理を適用した経験を持つ人たちも、著者たちと同じ考え方をするでしょう。

 実際に生産業務に携わっている多くのマネージャのような実務家の人たちが感ずるであろう、「理論」という用語が言外に持つ意味にも拘わらず、著者たちが、本書で読者に提供しよとしていることは、両足を大地にしっかりと着けたものです。 私たちの考え方は、常識に基づくものです。私たちは、本書で、読者の皆さんに語ることを、皆さんに、「信じなさい」とか「信用しなさい」とか求めることはしません。 私たちは、既存の方法に挑戦しますが、そうするには、そうすることの根拠があるからです。 私たちは、論理に裏づけされた、新しいパラダイムと方法を提供し、その後、これらの方法を、幅広いスコープを持つコンピュータ・シミュレーションを使って検証します。 このシミュレーションは、現実の生産現場の完全なレプリカではありませんが、このシミュレーションで上手く機能しないことは、現実の場でも機能しないということを検証できるくらいに現実に近いものです。 また、(証明ではありませんが)このシミュレーションで機能することは、現実の場でも機能するだろうと主張することもできます。 著者たちは、なぜ、ある方法が上手く機能し、他の方法が機能しないかを示すために、十分な注意を払い、常識を使うように、全力を尽くしました。

 制約理論のもたらしてくれる可能性について考えてみてください。製造業、サービス業に従事する会社が制約管理を効果的に適用して得た結果について、最近、行われたサーベイは、次のような結果を示しています。※1

  • リードタイム:平均70%短縮
  • サイクルタイム:平均65%短縮
  • 納期遵守度:平均44%向上
  • 在庫レベル:平均49%減少
  • 売上/スループット/利益:平均76%増加

 最初の四つの指標は、生産にのみ関係するものです。疑り深い読者は、これらの指標は、組織全体としての改善の可能性のみを示すものであって、これらの変化だけでボトムラインの業績が改善できると考えるには十分ではないと感じるかもしれません。そして、そう感じることは、完全に正しいのです。多くの場合、最初の四つの指標の改善によってもたらされるものにより、組織としての業績が改善される可能性があることを示しているのは、上に示されている最後の指標のみです。

 「平均」という概念の定義を思い出してください。そうすると、個々の結果は、上記の数字よりもよいものがたくさんあるということがわかります。そして、これらのデータは、結果を公表してもよいとして選ばれた会社の数字のみです。

 古いパラダイムに挑戦し、新しいパラダイムを創り出すことの中には、どのような機会が存在しているのでしょうか。例えば、本書を執筆した私たち、二人の著者は、近所に住む隣人ではありません。私たちは、8,000マイルも離れて住んでいます(8,000マイルを近所であるとは言えないと思います)。本書の執筆が必要とする、二人の執筆者の綿密な連携を行ないながら、たったの5ヶ月でこのような本を完成することは、私たちが、執筆者間の、顔と顔を突き合せた連携が不可欠であるという常識にチャレンジしたからこそ可能になったものです。もちろん、この連携は、インターネット時代が提供してくれた、新しい機会の一つにしか過ぎません。しかし、この例は、古いパラダイムに挑戦することの意味をよく示していると思います。

 ということで、読者の皆さんが、ご自分の所属する組織の行なっている業務を、ターボチャージャーで加速して競争優位性を獲得しようとするなら、きっと、本書が役立つでしょう。私たち二人は、読者の皆さんが本書を読まれ、読者ご自身の持っておられるパラダイムにチャレンジなさるようにお勧めいたします。

エリ・シュラーゲンハイムH. ウイリアムデットマー

※1 出所:Victoria J. Mabin and Steven J. Balderston, The World of the Theory of Constrains: A Revew of the International Literature, St. Lucie Press, Boca Raton, FL, 200